赤木仁ファイルTOPページ 赤木仁ショート・プロフィール webmagazine kimbou 赤木仁ファイル 山口由起子ファイル
あたまいっぱいの鹿のはなし:[4]January.2012-December.2012 赤木仁

二千九年一月から十二月までのお話はこちらです:1[ link ]

二千十年一月から十二月、前回までのお話はこちらです:2[ link ]

二千十一年一月から十二月、前回までのお話はこちらです:3[ link ]

---------------------------------------------------------------

その一番高い所では 見晴らしの良さから
遠向こうに在る 松林が 目でとらえられた

右: あっちに松がいっぱい見える
   
中: なんだ耳長は本当のことを言ってたんだ
  
左: 悪かったね 耳長

振り返ってみたら さっきまで付いて来た
未定の姿がどこにもない
ずっとずーっと付いて来てたはずなのに
砂の上には足跡すらもない 鹿のは有るのに
砂丘の上から 波打ち際を見渡しても
どこにも居ない

右: 居なくても いいんじゃない
  それより アオアオとしたかたまり
  あそこへ行きましょう 

松林はけっこうな奥行きだった
足元は松葉が降り積もって 土を覆い隠していた
下草がほとんどなく 駆け抜けてしまえた


(一月)
---------------------------------------------------------------

その先においしそうなニオイのする森がこんもりと
やわらかくて甘い草 瑞々しくすっぱい葉
ここにも そこにも あすこにも
食べ進んでゆくと 前方に明るく日の射す
開けた場所に出た
(生まれてまもない三つ頭が草を食べる不思議)
目が暗さになれていたので 初めは気づかなかったが
赤紫の実をつけた桑の木の根元に
音の出る奇妙なものを叩く
あのウサギリスが居るじゃないか

タカ タカ タタ テケ テケ テ

左: なんだか五月蝿いな

トトトト ト トン トン
   
ウ: 初めまして尾長ウサギです
  
中・左: 知ってるよ 耳長リスだろ

トト ト トット トト


ウ: そうなんですか 耳長リスなんですか

中: 君がそう言ったんだろ

ウ: いえ だから 初めまして です
   頭が三つの鹿さん
 
(二月)

---------------------------------------------------------------

右: なんだか 感じがちがう
   
左: 初めまして
  
右: どうして 初めましてなんて言うの

左: 初めてだからじゃないの

右: 何言ってるの
  同じ仲間とか 似てるとかじゃない
さっきまで一緒だったウサギリスそのものよ

左: わからないよ 彼らはみんな似ていて
だれに会っても同じに見えるのかもしれないじゃない

中: だとしても 似てるどころじゃないね

右: でしょう おんなじ子よ

ウ: あなたがた 私を知ってるんですか
では 私の半分は 知られているんだ

中: 今 君のことも知ったから
  これで全部知ったことになるね 

(三月)

---------------------------------------------------------------

ウサギリスは三つを知らない
別のどこかに居る自分の分身も

ウ: それではこの実(桑の実)をどうぞ 味わってください
   赤いのよりも 黒い方が甘いですよ
   
右: あたしは酸っぱいのが好き
  
中: 僕は甘くてニガイのがいいな

左: 葉っぱも悪くない

ウ: あなたたちは別々に食べても 胃袋は一つ

左: わからない

中: 三つ有るかも知れない

右: そうだ 誰が食べても同じなんだ
   (あたしが何にも食べなくても 飲まなくても
   あたしは平気なんだろうか
   もし 左と中が何にも食べなくなったら
   あたしが3倍食べなきゃいけないのかしら)

(四月)

---------------------------------------------------------------

左:  僕らは誰かが食べれば
   生きられるのだったら
   誰かが眠り続ければ
   僕は眠らなくても平気なんだろうか
   何日も 何十日も
   それとも 僕が眠り続ければ
   右も中も 起きていられるのかな
   
左:  あーなんだかとても疲れた
   このままずっと眠り続けたいな
  
左は中に頭を預けるようにして
眠りにはいってしまう 長い長い眠りに

ウサギリスが 左が眠ったのに気づいて

ウ: あ まさか 葉っぱを食べたのかい
   いけないな いけないよ それは

(五月)

---------------------------------------------------------------

頭をあづけ眠ったまま 口をかすかに開け
その奥から 白い糸を吐き出し
中の首にからませるようにして 
左は 頭をすっぽり 繭玉の中に隠してしまった

ウ:  この木の葉っぱを食べると
   糸を吐き 繭玉になってしまうんだ
   
中:  それじゃ僕らは胃袋が別々なんだ
   そうじゃなけりゃ 僕らも糸を吐いてるから

右:  あたし達 胃が別だったのね

ウ:  それはどうでしょう

頭いっぱいの鹿は胃袋を
いくつも持っているのだろうか
それぞれの口から それぞれの胃へ

(六月)

---------------------------------------------------------------
右:  ウサギリス 繭から左を出してよ
   
ウ:  私が勧めたのは果実です。
   葉っぱじゃありません。
  でも 同情はいたします。
   
中:  同情するだけかい
   こんな中に頭を入れていて どうにかなったら

右: せっかく三つ頭になったのに

ウ:  私は知りませんが 知っているモノを知っています
   それが居る所へお連れしましょう

右: またなの あなたはいつもそれね
   そこは近いの
   そこへ行くまでにもっとひどいことになったら

中:  今も大変なことになってると思うけど

ウ:  大丈夫です
   目の前の平原をぬけて
   あの高原へ出るだけですから

(七月)

---------------------------------------------------------------

平原をぬけながら 鹿が聞く

右:  ねえ この先が尖っているのに痛くない葉っぱは 何 
咲いている黄色い花の このおいしそうなニオイ
   
ウ:  これ黄水仙です
   でも 食べないで
   
中:  また何か起こるの

ウ: どうなるかは言えません
   食べてはいけない これは言えます

右:  繭の中の左はどうなってるの
  動かないじゃない

ウ:  その中では眠るんです
   その為に有るものですから

ウ: ちょっと(ささっと)背中にのせてください


鹿の背に乗るウサギリス

(八月)

---------------------------------------------------------------

(九月休み)

---------------------------------------------------------------
ウ:  頭に花粉が降るので
   
中: それはいけないのですか

ウ: 食べてはいけないモノが
   頭の上に積もるんです
   だめですよ

中: いいです 乗ってて下さい  

右: 足に付いたらどうなるの

ウ: 大事ないです
   
右: ねえ そんなに良くないモノなら
避けて行きましょう
遠回りしても行けそうよ

ウ: それはなりません
あなたがたはココへ どうやって来ましたか
今までやってきたことの 一つでも
やっていなかったら
あなたがたはココには居ないでしょう
だからこれからやることをやらなければ
行くべき所へは行けないのです
そこへ行けなければ
彼の頭を元へもどすことなど叶いません

中: やってはいけないこと
やらなきゃいけないことが多すぎる

ウ: いいえ やらなくてもいいことばかりです

(十月)

---------------------------------------------------------------
中:  なんだか黄水仙の花粉が足にからみつく

ウ:  蜜蜂の長足のだんごみたいになってますね

右:  だんごが四つ前にも後にも

中:  一つの花だけでこんなに広々としていると
   ニオイもこの花のニオイだけになってしまう  

右:  このニオイってひんやりしてる
   こんなに日にあたってポカポカしているのに
   まるで日影を歩いているみたい

ウ:  いえいえ
   雲の下に入っていますよ
   僕らだけを日影にしている
   とっても小さな雲が 空に現れて
   僕らと一緒に移動しています
   
中:  あのう 雲の影に入ったままでいいの
   
ウ:  いいんですよこれで
   黄水仙の中を歩かなきゃ
   あの雲は現れないんですから
   

(十一月)

---------------------------------------------------------------
中:  ウサギリス おかしいじゃない
   僕らがいる日影は 黄色い花だけど その外
   光に照らされてるところは
   白い花
   今度はどういうわけで こんなことになってるんだ
   見渡す限り黄色だったじゃないか

ウ:  でも 私達の廻りは黄水仙でしょう
   いいんですよ これで
   さっきも言ったでしょう
   黄水仙の中を 歩かなきゃいけないって
   歩いてるじゃないですか
   黄色い 水仙の 中を  

(十二月)

---------------------------------------------------------------

二千十三年一月ページ:5につづく>>>

赤木仁オリジナルBOOKリスト
[作品集]:
「洪水の前」というこの本のタイトルはアンドレ・カイヤット監督1954年の映画からインスパイヤされました
これまでの赤木仁のオリジナル油彩やえんぴつデッサン、ドローイングなどが収録されています

[タイトル]:洪水の前 [画集]
[著者]:赤木仁
[装幀]:中島英樹
[出版社]:美術出版社 _2000/04/20 出版
[定価]:本体価格3000円
[単行本]: 103ページ
[I購入方法]:
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場
※webmagazinekimbou:on line store[>>>link]

[絵巻物語]:
[タイトル]:AZUCHI あたまいっぱいの鹿_ハードカバー
[著者]:赤木仁
[装幀]:有山達也
[出版社]:リトル・モア_2007/11/04 出版
[定価]:本体価格2000円
[仕様]:A5ヨコ変型/96ページ/上製

[I購入方法]:
※リトルモアブックス
www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=677
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場

※webmagazinekimbou:on line store[>>>link]


赤木仁プロフィール:
石川県生まれ。画家、金子國義に師事。88年に独立。展覧会での作品発表を中心とする。2014−2015年は、ヤマタノオロチを題材にした"2014年美連協大賞受賞展覧会「スサノヲの到来 −いのち、いかり、いのり」"で、足利市立美術館、DIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館と5つの美術館を巡回した。2012年は、チャリティ広告展「日本繁昌大展覧会」でまねき猫のマークで参加している。初個展以来、10才までの銅山跡での体験を神話化した作品を描き続けている。他にも雑誌、新聞、単行本、Tシャツデザイン、マークデザインなど、色々な表現方法で活動中。作品集として画集「洪水の前」美術出版社が、またお話と絵を担当した絵巻物「AZUCHI あたまいっぱいの鹿」をリトルモアから出版、発売中。
許可のない転載、再発行を禁止します。LINKはTOPからお願いします。その前にご一報願います
No reproduction or republication without written permission.If you wish to link to this website please E-mail us first.
お仕事御依頼お待ちしております
kimbou.lotus [ at ] gmail.com>>>