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あたまいっぱいの鹿のはなし:[2]January.2010-December.2010 赤木仁

二千九年一月から十二月、前回までのお話はこちらです:1 [ link ]



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川姫壱: ねえ あなたは どちらからいらしたの
     あたしは 山肌に開いた穴から 飛び出したのよ
     落ちて苔だらけの石に当たって気が付いたら
     谷をサワサワと流れていたわ

川姫弐: あたしは 平たい所で目が覚めたわ
     水草に囲まれているのに気付いたの
     小さな虫が這い回っていて
     しばらくそこですごして ユクリユクリと流れて来たのよ

川姫三: あたしはね 聞いてよ あたしは空で気が付いたのよ 
     落ちてるって すぐに気が付いたわ 落ちているんだって
     落ちた後はどうなったかって
     あとは真直ぐな窪みをやって来たのよ

川姫壱: みんな どことは言わず
     プ・ク・プ・クと湧いて来たんだわね

川姫四: あなた達は そうかもしれないけど
     あたしは 木の根の先から したたり落ちたのよ
     湧いてなんかいない   

川姫五: あら あたしは岩だらけでできた大山の麓に
     五千年かけてしみ出したのよ
     一緒にしないでほしいものね

川姫四: ああ だから そんなにベッタリくっつかないでもらいたい

川姫三: 少し混じり合ったりしている

川姫五: やめて 気が狂ってしまう
     早く 早く ここから出して

    ぼくらは(二つ頭)あそこで近くに居た川姫達と一緒に
掬い取られて 箱の中につめられて
今 上へ向かっている
川姫達は 前の記憶を取りもどして
話し出している

(一月)

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   気が付くと 二つは一つ頭になっていて
   川姫達より少し遅れて地上に顔を出していた
   その地上というのは 一枚の平たい大きな岩に開けられた
   角張った穴で いっしょだった川姫は 一つになって
   穴から 溢れ出すと 一すじの流れとなり
   低い場所を探して 去って行った
   右と左は 自分達の意識が一つの頭の中で対面しているのに気がついた

右: どうしてあたしの頭の中にあなたが居るの
左: 君こそ僕の中に居るじゃない

   右を向いても左を向いても もう一つの頭がない

右: あたし達 一つの頭になってしまったの
左: ぼくはこのままでもいいや
右: あたしは嫌よ 体は一つしかなかったけど 頭はそれぞれに有ったのに
   それに こんなの望んでいない
左: うん そうだね
右: もう ちょっと しっかりして
左: うん それもそう だけど なんだか フラフラしないかい


   川姫を少し飲んだろうか
   胸が熱くなって ユラユラと たゆたううちに
   穴の中で 溺れそうになる。

(二月)

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左: 僕らは 川姫みたいに
   この穴から 顔を出した時に 一つになったんだ
   少ししかたってないのに だんだん まざってるよ
   君の気持ちが僕にもよくわかる様になってきたもの

右: あたしは あなたと 一つになりたくはないの
   あなたはとっても大事な兄弟だけど
   あなたの気持ちが こんなに あたしに
   入って来てほしくないの

右: きっと川姫みたいに 一つになったまま
   穴から出てしまうと そのまま一つになってしまうわ
   だから穴から出ないで このまま浮いていたほうがいいのよ

左: そうかもしれない でも いつまでも続かない

右: だめよ 足を動かして浮き続けなきゃ

   浮いているのに疲れ果てて 
   一つ頭はうつらうつらとしだした
   このままでは 沈んでゆくだろう と
   川姫の流れも途切れて久しく
   岩の上の濡れた後も乾こうとしていた

   その時 穴の下の方 底の方から
   揺れと地鳴りが聞こえてきた

(三月)

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(四月休み)

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   角張った穴に吹き出す川姫のかたまり
   穴底から 押し登って来た 大きな泡
   小鹿を一瞬浮き上がらせ
   その勢いで飛び出して 穴の縁になんとかふんばった

右: 何 何んなの

   気が付くと 頭が三つになっていた
   右と左の間には もう一つの頭が有り
   生まれた時から 頬と頬をふれていた
   二つの頭が離された

   新たに吹き出た 川姫達も
   三つになって 流れ下って行った

右: どうしてあたしが真ん中じゃないの

左: いつも一緒だったのに

右: さっき一つ頭になった時
   川姫が一つになって流れていったわ
   今度は三つにわかれて流れて行ったでしょう

左: だから僕らも三つ頭になったの

右: だったら もう一度穴に入って 四つに分かれて流れて
   行くのを待ったら 四つに分かれるんじゃない

左: 五つにも六つにもなれるよね

右: (あたしも端っこじゃなくなるかも)
  
左: やってみようか

中の首: それはどうかな
     一度出ちゃったから
     だめだと思うよ  

(五月)
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(六月休み)

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左: また 膨らんだ

   大っきな水球の表面に平べったい川姫の顔が
   ニンマリと現れた

左: 二つに割れたよ

右: 分れるのって初めて

左: ほら 二つになって流れて行くよ

中: ヘミ みたい

右: 今入ったら 二つ頭に戻れるかしら

   三頭は ためしに穴へ入ってみた
次の吹き出しで 変わらないことを知った

中: やっぱりだめだったね

右: なんで なんでなの
  
中: どうしても 三つが嫌なら 初めて川姫に会った所へ戻って
   やりなおせばいいさ

でもね 頭が一つになった時 もう僕は居たんだよ
   あの頭は僕のだったんだ
   そこへ君達が入ってたんだよ
   それに僕は ずっと前から居たんだ ずっとね
   形になってなかっただけ

左: あ また 今度のは大きい

右: 七つに分れたわ

左: 離れた所にも二つ有るよ

中: 今の 七つに分れた川姫 と 二つ離れた川姫
   あれが僕らの頭に起こったら
   僕らの首も あんな風に切れて飛んでしまうかも
   もしかして 僕らは 幸運だったんじゃないのかな

(七月)
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声には出さず

右: 真ん中になりたかった あたしがなるべきだったの
   だって左は真ん中に向いてないもの
   あたしをこんな所まで連れて来て
   どうするつもりかもはっきりしない
   落っこちる前に 帰ればよかった

   真ん中の子って 何なんだろう
   こんな子が居たなんて 感じたこともなかった
   ”僕は居たんだよ 見えなかっただろうけど...
   そんなこと言われたって 嫌


左: 僕は真ん中になりたかったのかな
   頭がふえる なんて素敵 そう思っただけなのに
   僕の右には右が居て 僕の左にもう一つ
   そうなったらいいなあって どこかで思ってた

   いつもの 右頬に触れる感じが違う
   生まれる前から一緒だった頬じゃない
   離れてしまった
   首をひねって 中の後ろから回り込んで
   チョットだけ右の首筋を舐めてみたい

右: 首筋を舐められた
   このなれなれしさは左だわ
   でも気づいてあげない

中: すぐに受け入れてもらえるとは思わないけど
   僕は ここだったんだから

    
(九月)

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右: ココ どこなの(中に向かって)

中: 知らないよ
  
右: いろんなこと知ってるのに

左: 僕たち今どこを歩いているんだろ

右: 森の中よ 差し込む光がまぶしくって 緑が濃い
   いつからココを歩いているのかしら

中: 何言ってるんだ あれからずっと一枚岩の上だよ

左: どっちも変なこと言わないで ずっと大池の端を歩いていたよ
   初めは岩の上だったけど

中: 今もそう 岩の上だよ
  
左: それじゃ 足下に何が見える

中: 長く続いてる亀裂

左: 空のうつった水面

右: 草よ おいしそうな 食べたことはないけど

顔を見合わせる

中: で どこに居る
  
右: 森の中

左: 水辺

中: 岩の上

右中左: 僕らは一緒なのに
     同じ景色を見ていないんだ
    
(十月)

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(十一月休み)

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右: あ 林の外へ出る

左: あ 水の中に入った

中: あ 地面のひびがなくなった

  
右中左: 向こうから 何か来る

右中左: こんにちは

何か: こんにちは ごきげんいかが

右中左: いかがでしょう


何か: 僕はフタイ


右: フタイさんって ずいぶん小さい

中: フタイさんって ずいぶん太ってる

左: フタイさんって ずいぶん高いな


フタイ: 小さくはないし 太ってもないし 高くもありませんよ
     それに あなたがたに見えるってのも変ですね
  
右: 見えてるわ 同んなじには見えてないみたいだけど

フタイ: あなたがた まずいですよ 僕と話せるなんて

中: あなたが話しかけて来たんでしょう

フタイ: 見えて 話せるなんて あー あー
  
左: 舐めることもできるよ

景色が変わった 原っぱだ 山の上の 窪地だ


右: みんな赤色に見える
中: みんな黄色に見える
左: みんな青色に見える

右中左: きもちが悪い

フタイ フタイ 色のない フタイ 
     
(十二月)

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二千十一年一月ページ:3につづく>>>

赤木仁オリジナルBOOKリスト
[作品集]:
「洪水の前」というこの本のタイトルはアンドレ・カイヤット監督1954年の映画からインスパイヤされました
これまでの赤木仁のオリジナル油彩やえんぴつデッサン、ドローイングなどが収録されています

[タイトル]:洪水の前 [画集]
[著者]:赤木仁
[装幀]:中島英樹
[出版社]:美術出版社 _2000/04/20 出版
[定価]:本体価格3000円
[単行本]: 103ページ
[I購入方法]:
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場
※webmagazinekimbou:on line store[>>>link]

[絵巻物語]:
[タイトル]:AZUCHI あたまいっぱいの鹿_ハードカバー
[著者]:赤木仁
[装幀]:有山達也
[出版社]:リトル・モア_2007/11/04 出版
[定価]:本体価格2000円
[仕様]:A5ヨコ変型/96ページ/上製

[I購入方法]:
※リトルモアブックス
www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=677
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場

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赤木仁プロフィール:
石川県生まれ。画家、金子國義に師事。88年に独立。展覧会での作品発表を中心とする。2014−2015年は、ヤマタノオロチを題材にした"2014年美連協大賞受賞展覧会「スサノヲの到来 −いのち、いかり、いのり」"で、足利市立美術館、DIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館と5つの美術館を巡回した。2012年は、チャリティ広告展「日本繁昌大展覧会」でまねき猫のマークで参加している。初個展以来、10才までの銅山跡での体験を神話化した作品を描き続けている。他にも雑誌、新聞、単行本、Tシャツデザイン、マークデザインなど、色々な表現方法で活動中。作品集として画集「洪水の前」美術出版社が、またお話と絵を担当した絵巻物「AZUCHI あたまいっぱいの鹿」をリトルモアから出版、発売中。
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