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あたまいっぱいの鹿のはなし:[1]January.2009-December.2009 赤木仁

ある時 双子の鹿が生まれた。兄弟は母の袋の中で、隣に居る
密着したモノに、互いに愛着を持ちだした頃、急に外へ出された。
そして気付いた。頭は別々だけど、体は一つなのだと、そして
自分達を生んだ母鹿は、一つの体に三つの頭だということを。
しゃがんでいても頭がフレフレする。
立ち上がって歩いてみてもフネフネする。
回りを歩く大きい鹿たちはスイスイだ。
でも足元をついて回る小さいのは、みんな、フネフレ、フネフレだ。
そして、みんな 頭がいっぱいだ。
昨日は七つ頭の鹿が生まれた。これは珍しいらしい。
だから、僕ら、子供の鹿はみんなで見に行った。
なんだかうらやましくて みんなで、臭いを嗅いでから少し舐めてみた。
時々 頭が一つの子もいる。でも だれも頭の数なんて気にしない。(一月)

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頭の数なんて気にしないと言ったけど、それはおとなたちのことで子鹿が
集まると、たがいの首の数を意識しているのがわかる。でも遊びだしたら、
忘れてしまい、走り回ってころころしている。(なんとなく気にしているのは)
二つ頭にとって、三つ首が気になるし、七つ首などは うらやましくて にくらし
くて、近くにいっては、のぞきこむ。もしかしたらそんなことが気にしているのは
頭の数が少ない自分たちだけかもしれないと思い、三つ頭の子にきい
てみた。そしたら、その子はそんなことは気にしなくてもいいんだよ。
秘密だけど、ぼくらの頭はふえたり へったり
することがあるらしいってゆうんだ。それは去年生まれた、まだおとな
になっていないおにいさん鹿がこっそり話しているのを聞いたんだ。
二つは、そんなことが、そんな素敵なことが、自分たちのうちに
起こればいいのに、ねえ、どうしたらいいの、だれに聞こう。母さんたち、
いいえ、これは聞いてはいけない気がする。では、だれに聞こう。
ねえ、きみたち、だれに聞いたの えーと 三つ頭のねーさんたちと 二つ頭と
四つ頭の兄さんたちが話してた。このねーさん、にーさんたちはいつも
いっしょにいて 三つの小丘に一本の松が生えているあたりにいつもいるよ。
それなら知ってる。よし あしたいってみよう。(二月)

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コロニーの中心から 日が沈む方向にむかって 
しばらく行った三つの小丘が寄り添っている 
その一番大きい丘から ウネウネと身をよじって沈む日を追っかけるようにした 
一本松がある所へやってきた 二頭の子鹿 
まだいつもいるといっていた鹿たちはいない 
膨らんではじけた松の根元に近づくと身を横たへるほどの穴があり 
日差しも強くなってきたので 入ってみると
スッポリ丁度よく
入っていると気持ちよくなって ウツラウツラ眠ってしまう

ねえ あの話って本当はあんたのことでしょう
ほら頭が三つから四つになったってやつのこと
だってあんた 子供の頃 頭が三つじゃなかった
小さかった頃はあまり仲良くなかったけど 
いつのまにか 四つ頭になってたじゃやない
たとえ話なんかしてたけど そうじゃないでしょう
あんたあたしたちと同じ三つ頭だったのよ
あたしたちだって頭をふやしたい ふやしたいのよ

またその話かこないだもいったろう
聞いた話だって

いいわよ聞いたことでも
知ってるならおしえてよ どうしたらそうなったかを

おしえてあげなさいよ

あんたたち仲間だと思ってたのにもう一緒にしてあげないわよ
大人になったらつがいになるって話もなかったことにするわよ

わかったよ(知ってることだけだ)
でもいつでもいいってわけじゃない
昼間 三日月が空にある日じゃないといけないんだ
この小丘の裏に小川があるだろう
それづたいに下って行くと二股になっていて左へ行くんだ
すると葦のいっぱいの原っぱへ出るんだ
その中ほどで待つんだ

何をよ(二頭と三頭の鹿が)

川姫が流れてくるのを

川姫ってなんなの

わからないけど流れてきたのにに聞くんだ川姫かどうかを
そして 川姫だと答えたら
その流れていくのを追いかけて一緒に川を下って行くんだ
けっして見失ってはいけないんだ ずっとだよ

そうか そうすればいいんだ(二頭の子鹿が松のウロの中でうなづいた)
でも まだ 三日月はでていない 
今日は帰ろう(三月)

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10日後の同じ場所 三の小丘の端をめぐる小川

二頭の子鹿の右の首(以後右):ねーどうしよう どうしたらいいの。
二頭の子鹿の左の首(以後左):あー じれったいな いいだろう ゆこうよ。
(気持ちが一つになっていない二頭の小鹿)
左:見なよ あの三頭のおねーさん鹿らしい足跡があるじゃない
  これさっきついたばかりの足跡だよ。やっぱり今日でいいんだよ。
  ミルクもいっぱい飲んだろう 大丈夫さ お腹がすくまでには帰ってこれるよ。
  それにお腹がすいたら 戻ってくればいいじゃない
  ちょっとだけ 行ってみようよ。
右:でも水にはいらなきゃいけなくなるんだよ なんだか恐い。
左:じゃこうしよう このままつけていって 三頭が川姫をみつけて 
  川に入るところまでみて 帰ってこようよ そして 本当に頭が増えるかどうかは
  後で確かめてみようよ。 そして 僕らがもう少し大きくなったら 
  同じことをすればいいんだよ。 ね これで いいんじゃない これがいいよ。
右:わかった でもそこまでだからね。

子鹿より 先を歩いている 三頭の鹿 ちょっとはすっぱな女の子達
右から ヒーとフーとミー

ヒー: ねー フー、ミー、もう一首増える子ってどこに増えるんだろう
    あたいとフーの間、それともフーとミーの間。
ミー: どこでもいいわよ それにふえるのが一首とはかぎらないしね
    二首ってこともあるかもしれないじゃない。
フー: どちらでもいいんじゃないかしら。
ヒー・ミー: あんたにとってはね そうでしょうよ。
ヒー: だいたい真ん中のあんたがのんびりしているのがちょっと不安なのよ。
    あんたのかわりに もっとしっかりした子が入ってくると あたしたちも
    楽になるのよ。 そのことがあるから ふえるといいのにって思ったんだから。
フー: みなさん あちらに何か見えてきましたよ。
    わあ すごい 小川が二つに分かれて まったく別々の方へ流れてゆくわ
フー: 左だったわね 小川を飛び越えるのよ。
ミー: なんてこと 後ろ足が水に はまったじゃない
    もっとちゃんと飛んでよ。
フー: だって 気持ちが一つになってないのよ。
ヒー: ミーが先ばしるからいけないのよ。
    あーなによ なんで走りだすのよ。
ミー: みてごらんなさい 向こうに見えるでしょう こんもりとした草むらが。
フー: ああ きっと あれですね 小川が草むらにすいこまれてゆくわ。
ヒー: 水の音を聞きのがさないようにしないと。
    ガサガサ パキパキ ガサ パキ

右:  まって ちょっと 止まってよ。
左:  いそげ 三頭が草むらに入った。 
    カサカサ      (四月)

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ヒー: あーやだ また川にはまった 近づきすぎよ。
ミー: もっとちゃんと歩いてよ。
フー: ごめんなさい 草で前も足もとも見えないの。

左: よかった 僕ら小さいから そんなに歩きにくくないや
  三頭に気づかれないかな
右: そんなことより もう前にすすみたくない
左: どうしてさ 止まっちゃったら 三頭においてかれちゃうよ
右: いいの 草むらに入ったのが わかったんだもの
  もう帰って まってようよ。
左: だけど 川姫にあうとこまで見ないと 今度きたときに
  川姫がどうかわからないじゃない。
右: つかれたから 休みたい。
左: こんなところでかい。
右: いやなら帰る約束でしょう それにのどがかわいたの
左: それじゃ川の水をのもうよ そして ちょっと休んだら もう一度。
右: それは休んでから考える。
左: そうだね水をのもう 水をのもう


小川に近づき 水を飲もうとする 二頭の子鹿
水面に口を近づけると水をのむ クプクプ クプクプ 川上から
ゆっくりと 流れて来るものが横目に見える 鹿でなく
よくみかける うさぎともちがう 一頭の生きものが頭を手前に流れてきた。

左: あなたはだれ。
川姫:(以下、川) わたしを知らないモノには答えません。
右: あなた 川姫さん。
川: ええ 川姫です 私の名をよぶモノよ 望むことあらば
  我のあとにつづきなさい。

二頭はまようことさえわすれて 水の中に入って川姫のあとを追ってゆく。
三頭は小川の近くには居たのだが 川姫と二頭のやりとりさえわからず 
草にからめとられていた。しばらくして 小川をみつけたが
川姫は 流れさったあとで ずいぶん長くそこにいたが また言い合いとなり
ついに草むらをぬけ コロニーへ帰ってしまう。
二頭の子鹿は 川姫を見失しなうまいと 必死で流れを
下っていった。

ウ ワァー 横へ移動してていた体が 下へおちていた

(五月)
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落ちて行く ぶつかった 痛みもない。
落下が止まり 斜めに流されている。
水が岩と同じ匂いになった。
水の味 苦くてかたい。少しだけど ピリピリして 飲み込めない。
もう口にするのはよそう。
突然 川がない。水だけが鹿を包み 一緒に落ちて行く。
(さっきまでは落ちながらも川は有ったのに)
あれ 水が温かい 夜のような暗闇に落ちて来たと思ったら
ぼんやりと明るく はっきりとしないぐらい暗い。
また落ちた 水がとっても温かい。
広くて明るい 川姫が何かに乗っかってただよっている。
上半身が水の上にでてる。
頭は一つだ 初めて流れて来た時は二つにも三つにも見えたのに
頭についてる毛が長い とっても長い 鹿とは違うんだな。

鹿が顔を近づけると。 
川姫はアゴの下にやさしく手をふれ。
頭をかしげて 歌い出す。

あなたが水底(みなぞこ)に居ると思うから
ここは水面(みずも)
水面に居ると思うなら
ここは水中(みなか)
水中だと思ったら 水上(みかみ)
あなたが居るなんて思うから
どこかに居るなんて気になるの
どこに居ようとここは私の中なのよ

ええ そうなの。

鹿は水の中にもぐってみる。
泡の数程の川姫が 所せましと 鹿を包んでくる。
苦しくなって 首を水から出すと
歌っていたい川姫が 奥に向かって流れてゆく。
おいかけなきゃ 奥へ 
でも本当に 奥へ向かっているのだろうか
まってよ 川姫さん。 

(六月)
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(七月休み)

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右:お腹がすいた
左: お腹はすいてるさ、思い出さないようにしてるのに。
  そんなに言わなくてもいいのに。
右:お腹がすいた すいたら帰るって言ったのに。
左:言ったよ 言ったけど 僕らは流されてるんだ
  もどったって あんな所 登れるわけないじゃない。
  落ちてきたんだから。
右:.......
左:僕らは流されているんだ。
右:.......
左:同じ流れなのに どうして川姫は僕らより早く
  行けるんだろうね。
右:.......
左:さっきは あそこで待っててくれたんだよね きっと。
右:待ってたわりには おいてかれたじゃない。
  気まぐれよ あんなの。
左:この先には 何があるんだろう。
右:なんてのんきなの。
  あたしが こんなに不安なのに。

あら こんにちは ごきげんよう。

二つ頭の鹿 流されながら振り返る
真っ白な生き物に乗った 川姫が微笑んでいる。
でも この川姫はずいぶんお姉さんだ。

(八月)
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右: あなたは 川姫さん。
左: ずいぶん大きいし 顔も違っているような。
川姫2(以後川2):
   私は一度 川下に行っていたのよ。
   川姫って下流に行く程育つのよ。
右: あなたの乗っている 白い大きな生き物は。
川2: この子 イルカって言うのよ。かわいいでしょ。
右: 初めましてイルカさん。
イルカ(以後イ):
   初めてです。イ・ルカです。
右: イとルカを離すんですか。
イ: 離して下さい。必ず。
  
鹿とイ・ルカが話すのをさえぎって

川2: 私は川下から戻って来たのよ。
左: それじゃ あなたが小さかった川姫さんですか。
川2: あなたたち その川姫と話したの。
右: ハイ 顔も見ました。川姫さんもこっちを見てました。
川2: それじゃあ 私じゃないわ。
あなたたちなんて知らないもの。
左: 僕たちの知ってる川姫さんは。
川2: 知らないわよ ここは川姫だらけ。
色んな川から流れ込んで来るのよ。
下流へでも行ってみたら たまり場が有るから。
でも急がないと間に合わないわよ。
右: 急ぎたいけど あたしたち泳ぎがへたなんです。
イ・ルカさんはどうですか。
イ: いたって得意です。
左: それじゃお願い....
川2: とっても上手よ 見せてあげる

流れに逆らい一回りしてもどって来て

川2: でもかさない

一言残して上流へ行ってしまう

右: 急がなきゃならないのに
左: 急げない事がわかったね

二つはゆるやかに流されて行く

(九月)

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(十月 休み)

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左: 流されてるネ
右: 流されてるワ

左: 何かにおわない
右: におってるわ ずーとね

左: 何のにおいだろう
右: 落ちてから においが変わったノヨ 気づかなかった

左: そんなことわかってたヨ でもまた変ったヨ
右: そうなのヨ 何のにおいかしラ

左: 鼻の奥の方が ツキツキするネ
右: 目から水がプツプツ出るワ

左: 見て天井が光ってル
右: 水だって変 夜明け前の空のヨウ

左: 何かが僕の横を流れていった
右: あたしの顔も触って行ったワ

左: あ また 触ったヨ 触ったヨ
右: すごくいっぱい居るノヨ

左: どれだけ居るんだろ
右: 数えきれないワ

左: ねーこれって もしかして
右: みんな 川姫かしら

川: ええ そうよ

どの川姫が答えたのかわからない

(十一月)

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右: あたし達 流されなくなったわ
左: それじゃ ここが集会所だね
右: そうね こんなに居るんだもの 川姫
左: 来たい所へは来たけれど
右: あの川姫はどこかしら
左: かんたんさ
  「僕らを知りませんか」
右: 大声出さないで(右が左の耳を噛んだ)

   大勢の青紫色の川姫に囲まれて持ち上げられて
   グルグル廻されて 落とされて
  「知らないわ」と散っていった

右左: どうしておしえてくれないの
川姫: それはね あたし達 みーんな同じなのよ
    集まってきて ここに居ると 一つになるの
    あなた達を知ってる あたし達のだれかは
    あなた達を知っているんだけれど 今は思い出せないのよ

    でも あそこへ行って 外へ出られれば
   ここへ来た時の私達にもどれるんじゃない 

その指し示す先に 色のない一角が見える

(十二月)

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二千十年一月ページ:2につづく[link]>>>

赤木仁オリジナルBOOKリスト
[作品集]:
「洪水の前」というこの本のタイトルはアンドレ・カイヤット監督1954年の映画からインスパイヤされました
これまでの赤木仁のオリジナル油彩やえんぴつデッサン、ドローイングなどが収録されています

[タイトル]:洪水の前 [画集]
[著者]:赤木仁
[装幀]:中島英樹
[出版社]:美術出版社 _2000/04/20 出版
[定価]:本体価格3000円
[単行本]: 103ページ
[I購入方法]:
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場
※webmagazinekimbou:on line store[>>>link]

[絵巻物語]:
[タイトル]:AZUCHI あたまいっぱいの鹿_ハードカバー
[著者]:赤木仁
[装幀]:有山達也
[出版社]:リトル・モア_2007/11/04 出版
[定価]:本体価格2000円
[仕様]:A5ヨコ変型/96ページ/上製

[I購入方法]:
※リトルモアブックス
www.littlemore.co.jp/store/products/detail.php?product_id=677
※LIBRAIRIE6 / シス書店
librairie6.shop-pro.jp/
※有名オンラインショップ
※赤木仁個展会場

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赤木仁プロフィール:
石川県生まれ。画家、金子國義に師事。88年に独立。展覧会での作品発表を中心とする。2014−2015年は、ヤマタノオロチを題材にした"2014年美連協大賞受賞展覧会「スサノヲの到来 −いのち、いかり、いのり」"で、足利市立美術館、DIC川村記念美術館、北海道立函館美術館、山寺芭蕉記念館、渋谷区立松濤美術館と5つの美術館を巡回した。2012年は、チャリティ広告展「日本繁昌大展覧会」でまねき猫のマークで参加している。初個展以来、10才までの銅山跡での体験を神話化した作品を描き続けている。他にも雑誌、新聞、単行本、Tシャツデザイン、マークデザインなど、色々な表現方法で活動中。作品集として画集「洪水の前」美術出版社が、またお話と絵を担当した絵巻物「AZUCHI あたまいっぱいの鹿」をリトルモアから出版、発売中。
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